「スタッフのコラム」を更新しました!(R5.5.10)

●人はどうして周りに合わせてしまうのか? -『同調実験』についてー

 新型コロナウイルス感染が広まりかけの頃、マスクをしていない人に目くじらを立てる人がいて、極端な場合『マスク警察』なる人たちが現れたと聞きます。そして今度は感染者数が減って、マスク着用が個人の判断となりました。それでも、皆マスク習慣が抜けず、もうずっとマスクをしようという人もいます。また、本当ははずしたいと思っても、周囲がはずさないという『同調圧力』から、はずせないでいる人もいるのが事実のようです。どうして、自分では良いと思っていても、周囲の人の多くが違う判断をしていると、ついついそちらに合わせがちになるのでしょうか。このように、人と歩調を合わせることを『同調行動』と言います。

 

 多数派による社会的圧力が個人の意思決定にどう影響するか調べる実験を行った人が過去にいました。それは、ソロモン・アッシュの『同調実験』として有名で、次のような実験です。

    被験者は6人~8人であるが、本当の被験者は1人で、残りは偽の被験者いわゆるサクラである。

    全員が視覚に関する簡単な問題が18問出され、すぐ正解がわかるものばかりであるが、解答は全員の前でしなければならない。

    本当の被験者が答える順番は、最後か最後から2番目である。

    全員にまず線が1本描かれたカードを見せ、次に長さの違う線が3本描かれたカードを見せる。

    3本の線のうち、1本の線と同じ長さと同じものはどれか1人ずつに答える。

    最初の2問は全員正解を答えるので、被験者は安心して答えることができる。

    しかし、3問目からはサクラが全員、解答を間違い始める。

    サクラが誤答するのは、18問中12問である。つまり、この12問に本当の被験者がどう答えるのかに注目する。

    周囲の全員が明らかに誤った解答をした場合、本当の被験者も皆と同じように誤った解答をするのか、これを調べるのが実験の目的である。

 

 実験の結果は、周囲の明らかな誤答に同調して、75%の被験者が少なくとも1回は誤答するという驚くべき結果でした。全体としては、被験者は32%(37%と書かれた本もあります)の確率で同調していました。また、アッシュは『同調行動』に影響を与える集団の人数も調べています。3人以上人がいると、同調行動が顕著に見られることがわかりました。比較する線の長さがよく似ていて判断が難しい場合も、同調しやすくなることがわかり、人は不確かなことがあると、他者を頼る傾向があることを示しています。そして、難しい課題であればあるほど、同調する確率が高くなるのです。多数派の『同調圧力』に屈しないのは、結構難しいということなのでしょう。なぜこのようなことが起こるかという理由は2つあることもわかりました。1つは『規範的影響』と呼ばれ、人は帰属する集団の要求に応えてその集団に適合したいと思うということです。もう1つは『情報的影響』で、集団は自分よりも情報を持っている、よくわかっているはずだと考えるためです。社会的圧力によって個人の認識がどれほど変わり得るかがはっきり示されました。周囲に合わせすぎるのもどうかと思いますが、まったく我が道を行かれるのも困ったもので、加減が大切ということでしょうか。

情野