「スタッフのコラム」を更新しました!(R5.11.1)

言葉の意味のうつりかわり 

 

 

 

以前私は、ホームページに、『用語の誤用』というタイトルのコラムをアップしたことがあります。しかし、その後考え直してみました。別に誤用ではなく、変化したとも言えるのではないかと。たとえば、『煮詰まる』、『破天荒』という表現があります。『煮詰まる』の本来の意味は、「話し合いが十分になされ結論が出せる」という意味ですし、『破天荒』は「今まで誰もしなかったこと、前代未聞」という意味です。それが、前者は「行き詰ってしまった」、後者は「型破り、豪快な」という意味に変わっています。しかも、そちらの方が主流の使い方になっているようです。

 

心理学用語では、『コンプレックス』がその代表(?)の感があります。これは、日常会話のみならず、テレビや新聞、雑誌などの媒体でも、目や耳にすることがあります。たとえば「私は料理にコンプレックスがあるから…」、または「運動に対するコンプレックスを克服して…」などのような使われ方をしています。普通に『劣等感』という意味として使われています。また、その他にも「あいつはマザコン(マザーコンプレックス)だ」とか、「ロリコン(ロリータコンプレックス)だ」と人にレッテルを貼ったりします。前者は母親に対する、そして後者は幼児に対する、それぞれ強い愛着があるという意味合いになり、揶揄する言葉として使われています。

 

では、心理学用語としてはどうなのかということになりますが、愛着などはあくまで、その一部しか表していないのです。そもそも、コンプレックス(complex)は複合という意味です。スキー競技の複合競技(ジャンプと距離)は英語にするとcomplexです。ですから心理学的には「感情によって色づけられた複合体」というのが、本来の意味でした。内容は「何らか感情によって結合されている心的内容の集合体で、それが日常の中で意識活動を妨害し、生活に支障を来す」という何やらわかりにくいものです。どうしてそうなるのか、周囲はもとより、当人すら皆目見当がつかないもので、スイスの精神科医ユングが最初に使ったと言われています。これには「意識」、「無意識」というものが関係しますが、何せ精神分析の用語ですので、全部を説明しようすると長くなるので省略します。ですから自ら「コンプレックスがあって」と言える人は逆にコンプレックスがないか、克服しているということになるわけですね。早くに父親を亡くし、年上の男性を好きになる(これはファザコンになりますか)というようにわかりやすい図式ではないのが、本来の『コンプレックス』なのです。おそらく、『劣等感』と日本語で言うより、軽く耳ざわりが良い感じになることもあるのかと思ったりします。

 

情野

 

 

 

参考文献

 

   「コンプレックス」 (岩波新書) 河合隼雄