スタッフのコラムを更新しました!(R3.6.1)

 TVドラマが最終回を迎えた時や,芸能人の結婚報道後にSNSなどでよく見かける「○○ロス」。ここでいう“ロス”の語源は,英語のlossであり「喪失」の意味を持ちます。また○○の部分には,様々な人や事物が当てはめられるようです。最近だと,「愛の不時着ロス」や「鬼滅(の刃)ロス」(…は,もう古いでしょうか?),「ガッキー(女優の新垣結衣さん)ロス」などが注目されていました。流行や社会現象となる出来事に伴って変化するようで,若年世代を中心に多用されています。

 

 「○○ロス」という言葉は,「ペットロス症候群」に由来する新語・俗語であると言われています。「ペットロス症候群」は,「ペットを失ったことを契機に発生する,疾患,もしくは心身の症状」を意味します。初出は不明ですが,この「ペットロス症候群」から転じて,社会から強く支持される人物や物などを失って,悲しくなったり虚脱感に襲われたりする状態を「○○ロス」と表現するようになったようです。ちなみに,この表現が広く認知されるようになったのは,2013年に新語流行語大賞にノミネートされた「あまロス症候群(ドラマ「あまちゃん」の放送終了後,喪失感を覚える現象)」からであるとされています。

 

 さて,精神分析の世界では,「対象喪失(object loss)」という言葉があります。これは,近親者の死や恋人との別離などの外的対象喪失のみではなく,自分自身の健康を失ったり,理想的に思っていた人物の違う側面を見て幻滅したりといった様々な喪失が含まれています。対象喪失を体験した時に起きる心理的な過程は「喪(mourning)」といい,フロイトは,喪失体験を受け入れ,立ち直っていく心のプロセスを「喪の仕事(mourning work)」と呼びました。

 

 少し逸れてしまいましたが,話を元に戻しましょう。何かに愛着を持ち,熱中することは羨ましいですし,エネルギーを感じます。また「○○ロス」を体験した時に,<喪失を自覚している>ということをカジュアルに言葉で表現することで,寂しさや悲しい気持ち,その時のショックを和らげているのかもしれません。周囲から共感のレスポンスがあれば,安心にも繋がるのではないかと思います。自分自身の喪失感と向き合うには,自分の気持ちをそのままに受け止め,表出したり,その時どきの感情に浸ったりする時間がそれなりに必要なのでしょうね。

 

城戸